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第 53 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時:1998年 10月 29日(木) 午前 9:30 〜 12:00
場 所:低温科学研究所 2F 大講義室

発表者:水田元太 (大循環力学講座)
題 目:深層循環におよぼす海底地形の影響

発表者:河村 俊行 (低温科学研究所 海洋動態分野)
題 目:南極リュツォ・ホルム湾の海氷成長− 特異な海氷成長過程 −

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深層循環におよぼす海底地形の影響 (水田元太) 発表要旨:

  海洋の深層循環は、海底の直上を流れるために地形の影響を強く受ける。こ 
 のため、その影響の力学についてはこれまで様々な研究がなされている。ここ 
 では「地形が海盆全体の平均的な循環にどの様な影響を与えるか?」という視 
 点から、(1)海底斜面とhypsometry理論、(2)海底の凹凸が巨視的循環に与える 
 影響、の2つについて行った研究についてお話しする。 
  
  (1) Rhines and MacCready (1989)は海盆がお椀の様に深い所ほど水平断面積 
 が小さいくなっている、という"hypsometry"の効果のため、海盆全体としての 
 循環が高気圧回りになりやすい、とした。Ishizaki (1994)が行った数値シミュ 
 レーションの解析結果では、太平洋の深層流はほぼ真東を向くが、この特徴が 
 hypsometry理論で良く説明されるように見える。しかし、摂動の考えを用いる 
 と実際には、hypsometryが同じでも海底地形は循環に正反対の影響をおよぼす 
 ことがあることが分かる。Rhines and MacCreadyの定式化を検討すると、その 
 中に必ずしも適切でない近似が入っている。 
  
  (2) 海底には不規則な凹凸があるが、これを海山、海谷(海底の凹み)の集 
 合としてとり扱うことにより、深層循環全体に与える影響を調べた。山、谷地 
 形の上を流れが通過する際には渦柱伸縮が起きるが、領域積分してみると全体 
 としては伸びも縮みもしない。巨視的な循環は伸縮の1次のモーメント(双極 
 モーメント)の平均的な分布で決まり、(1)と同じ摂動の考えを用いると巨視 
 的循環への影響は地形の凹凸を使って表すことができる。 

南極リュツォ・ホルム湾の海氷成長− 特異な海氷成長過程 − (河村 俊行) 発表要旨:

   海氷は極域の大気ー海洋間の相互作用に重要な影響を及ぼす。海氷の存在は 
 表面のアルベドを増大させ、大気と海洋の界面を通じての熱・水蒸気や運動量 
 の交換を制御する。また、海洋への塩の配分を支配する。従って、海氷の変動 
 は地域的ばかりでなく、全地球的規模の気候に多大な影響をもたらす。年間を 
 通じての海氷の諸特性を知ることは、極地の環境に対する海氷の影響を理解す 
 るのに重要である。 
  海氷の研究は主に北極海を中心とする北半球で行われてきた。南極での観測 
 船を用いての本格的な研究は、やっと1970年代後半からウェッデル海で行われ 
 るようになってきた。これらの観測から同海域の海氷が従来研究されてきた北 
 極域でのものとはかなり異なることが明らかになった。それらの海氷は予想外 
 に薄く、塩分が多く、granu lar ice の量が多く、複雑な構造をしていた。 
   1990年代に入り、Weddell海の結果が南極域全体を代表しているかを確かめ 
 るための研究が Ross,Amndsen,Bellingshausen海で行われるようになり、 
 Weddell海と類似の結果が得られた。また、海氷成長に及ぼす積雪の影響が大 
 きいことが示された。 
  しかし、それら全ての研究は、ある時点、ある海域での海氷の状況・構造な 
 どであり、同じ地点で通年観測したものは皆無であった。 
   日本南極地域観測隊(JARE)では、ACR(Antarctic Climate Research;南 
 極域における気候変動に関する総合研究計画)の一つの柱として、1990年2月〜 
 1992年1月まで第31、32次隊によって昭和基地周辺のリュツォ・ホルム湾の定 
 着氷域で海氷および海洋に関する通年観測が集中的に行われた。これにより、 
 同一地域での冬期を含めた2年間のデータと新しい知見が得られた(Kawamura 
 et al., 1993; Kawamura et al., 1997)。 
  リュツォ・ホルム湾の積雪は、他の南極域と比較して多かった。多雪域では、 
 厚い積雪と海氷のため、冬の間でも殆んど成長していない。しかし、夏の時期 
 に極めて大きな氷厚の増大がみられるという、注目すべき結果が得られた。海 
 氷コアの解析からこの夏季の成長は、積雪を起源(積雪に海水が浸透して出来 
 る snow iceと融雪水の再凍結による superimposed ice)として、上方に成長 
 していることが明らかになった。この海氷の成長機構では、積雪があり、それ 
 が一部でも融けさえすれば、際限無く海氷の厚さが増大することになる。 
  同じ構造を持つ海氷が Amndsen/Belingshausen海の多雪流氷域でも見つかっ 
 た(Jeffries et al., 1994)。この海氷も同じ過程で成長したと思われるので、 
 リュツォ・ホルム湾で発見された新しい成長機構は地域的なのもではなく、普 
 遍的なのもと思われる。それを確認するための観測が1999年1月に行われる。 

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連絡先

水田 元太 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻大循環力学講座
mail-to:mizuta@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2359